ヨコハマ想い
「手から生まれる感覚」
アニメーションディレクター 伊藤有壱氏
profile
1962年生まれ、中区在住。I.TOON代表。ミスタードーナツ「ポン・デ・ライオン」CM、平井堅「キミはともだち」MV、松竹110周年記念「ノラビッツ・ミニッツ」、アニメ撮影ソフト「CLAY TOWN」プロデュース、他多数。代表作 NHKプチプチ・アニメ「ニャッキ!」は今年20周年を迎える。日本アニメーション協会理事。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻教授。
絵を描くことと「テレビ漫画」が大好きな子どもでディズニーやトムとジェリーの短編をよくみていました。アメリカのものは何かが明らかに違うと感じていて、大人になってその芸術性や自由さに気付くことになりました。
高校に上がるとアニメを「作ってみたい」と思う様になり、サークルを作って8ミリのフィルムカメラを買いました。皆素人でネットはもちろん、書籍もほとんど無く手探りです。それでも1年かけて27分のアニメを作り、文化祭で上映し、入場料もいただきました。生意気な高校生ですね(笑)。一枚一枚描いて撮影した作品が上映され、動き出した瞬間の感動は忘れられません。
美大でグラフィックデザインを学び、映像の仕事に就きました。スターウォーズなどSFXとよばれる最新技術を駆使した映像で、ものすごい情報量をフィルムに焼き付けて作ります。ポスターなどの印刷物とは違う感動がありました。
90年には、私の独立作品「星眼鏡」が広島国際アニメーションフェスティバルにノミネートされ、ここでアードマン・スタジオの「ウォレスとグルミット」に出会いました。人間味のある、体温を感じる作品で、指紋がついた粘土の役者たちが、生き物のように感情や感覚を表現している。作品にはイギリスならではのドールハウスやクラフトの歴史が活きていて、技術の豊かさや深さ、可能性を感じさせてくれました。
アードマンのピーター・ロードさんに会う機会があり、ぜひ訪問したいとお願いして一生懸命手紙を書き、やっとOKをもらいました。ブリストルという地方都市のレンガ作りの倉庫にスタジオはありました。ほんの短い期間でしたが、この経験はこれまで20年の自分の栄養になっています。
日本に帰ってくると「NHKで新しい番組のプレゼンがあるからやらないか」というお話をいただきました。
監督としてデビューできるか、将来の為にアードマンでインターンをするか、どちらも魅力的でしたが、やりたいことが爆発するほどたまっていた私は監督ができる方を選びました。その企画が「ニャッキ!」です。
「ニャッキ!」は私のアイデアや技法など全てをぶつける、偉大なる実験劇場なのです。テレビ漫画でみた自由な発想や感じた不条理さなどがニャッキの中にも入っています。
一つの作品を作るには1ヶ月ちかく缶詰になって撮影します。ぎゅっとまがったもの、ちょっとまがったもの、まっすぐ、いろいろなポーズを作ります。一回に動かすのは0.5ミリのこともあれば2センチのことも。1秒間に15回動かして撮影しては再生し、動いてみえるようになります。あまり人にはおすすめしない表現です(笑)。
「ニャッキ!」から大きく影響を受けて港街が舞台の「ハーバーテイル」という作品ができました。100年前と同じクラフトの良さと、今の技術でしかできない拡張性を持った「ネオクラフトアニメーション」という手法です。これまで私が経験してきたコンピュータを使った最先端と、アナログが素直に結びついたのです。
目指したのは“世界観を作る”こと。雲が形を変えてゆっくり流れていたり、光がひらひら瞬いていたり、隅々まで息づいている世界を描きました。
この「ハーバーテイル」は人形アニメの聖地、チェコ共和国ZLIN国際映画祭で最優秀賞と観客賞を受賞しました。海の無いチェコで、港の風景が大きく映り評価され、作品が一人で歩き出した…と感じました。どこまで行くのだろうか、もっと試してみたいです。