TOP > 地域情報紙 > ヨコハマ想い vol.26 映画監督・俳優 利重 剛氏

ヨコハマ想い


「ぜひ、映画は映画館で!おまけもあります! 」
映画監督・俳優 利重 剛氏

profile
1962年生まれ、横浜市鶴見区出身。高校3年の時に自主制作映画「教訓Ⅰ」がぴあフィルムフェスティバルで上映、翌年、TBSドラマ「父母の誤算」の主演として俳優デビュー。「近頃なぜかチャールストン」(監督/岡本喜八)では主演、共同脚本、助監督を務める。主な監督作品に89年「ZAZIE」(ベルリン国際映画祭等に出品)、95年「BeRLiN」(日本映画監督協会新人賞受賞)、2001年「クロエ」(ベルリン国際映画祭招待)などがある。俳優としても「坂の上の雲」「龍馬伝」「半沢直樹」「クロコーチ」など多数出演し、多方面で活躍している。

昨年、老舗映画館シネマ・ジャック&ベティと横浜シネマリンで、本編が始まる前の“おまけ”として月変わりで短編12作品が上映された。この横浜を舞台にした連作ショートフィルム「Life works」をプロデュースするのは映画監督で俳優の利重剛さん。7月からの新作上映を前に、この試みへの思いを伺った。

頭の中は映画でいっぱい!

 家の近所には鶴見文化や京浜映画など映画館がたくさんありました。小学生のころから友達とよく通っていて、カンフーやアクションの3本立てなどをよく観ていました。
 ところが中学に入り伊豆に引っ越すと、映画を観るためには、2時間に1本しか走らないような単線を乗り継ぎ沼津まで出ないといけなくなった。気軽に観られなくなって初めて映画が大好きだったんだと気付きました。
 高校は映画を作るクラブがある成蹊学園へ進み、頭の中は映画のことでいっぱい。8ミリ映画を作り、コンクールにも応募していました。高校3年の時に『教訓Ⅰ』という映画を作りました。高校の中で徴兵制が敷かれてしまうというブラックコメディです。これが、ぴあフィルムフェスティバルに入選し、映画館で上映されることになりました。

岡本喜八監督へファンレター

 思い切って、大ファンだった岡本喜八監督に分厚いファンレターを書きました。「映画を作っています。監督と同じ反戦映画です。よかったら観に来てください」と。
 しばらくして「岡本です」と電話があり、だれだろう?と思っていたら「岡本喜八です」って!驚きました(笑)。映画を観てくださり「面白かったよ、よかったら遊びにおいで」と。自宅へ伺うと「君の映画は、ぼくよりもでたらめでおもしろい。すごく自由で刺激になった」と誉めてくださいました。
 「役者もやっているなら続けた方がいい。有名になれば自分で映画が撮れるかもしれない。これからは有名な人が映画を撮る時代がくる。それから脚本を書けなければ監督はできない。それと、1回でいいから助監督をやりなさい。僕らが3時間で撮るシーンを今君は3日もかけて撮っているはず、無駄が多い」と助言をいただきました。ありがたくてジーンとしながら聞いていたら、唐突に、これを一緒にやろうよと『近頃なぜかチャールストン』の企画を渡されました。「出演して脚本も一緒に書いて、助監督もやれば、今言ったことが全部一度にできるだろ。いつから来られる?」と。
 すぐに監督の家に住み込み一生懸命脚本を書きました。実際に採用されたのは台詞が二つくらいでしたけれど、ぼくみたいな生意気なやつでも否定せず、「自由に書いてごらん」と修業をさせてくださいました。
 プロアマ関係なく誰が出てもいい、映画業界以外の人が作ったっていい、そんな垣根がなく自由である面白さを岡本監督から教わりました。どれだけ感謝しても足りません。

「Life works」

 20代の頃、旅先のアメリカで観た映画に、おまけで短編がついていたんです。例えば音楽映画の前に、ミュージックビデオのような映画が上映される。これが存外におもしろかった。なぜ日本にないのだろう?いつかやりたいな、と、ドラマはどうか、連作のほうがおもしろいね、なんていろいろな人との世間話の中で、少しずつ「Life works」の形が決まりました。
 撮影や編集もデジタルの時代になり、シネマ・ジャック&ベティ支配人の梶原さんも「短編の連作も作れると思うよ。たくさん作ったら上映するよ」と言ってくださっていよいよスタート、「アーツコミッション・ヨコハマ」の助成も受けて2014年には毎月1本、計12本を上映することができました。

“おまけ”の魅力

 「Life works」の魅力の一つは“おまけ”であることです。同じ映画を観るならおまけがある映画館へ、おまけを観に映画館へ、というきっかけになってくれたらうれしいです。それに、おまけならではの偶然の出会いがある。本屋さんで気になる表紙の本を買ったり、新聞を広げて思ってもみない情報と出会ったりするように、映画でも、偶然の出合いで人生が大きく変わることもあるかもしれない。そこがおもしろい。
 「Life works」はすべて横浜が舞台、お店で働く方がそのまま映画に出ています。横浜で映画を観たらおまけがついていて、知っている人が出ていたり、ロケ地が近所でアレ?と感じたり。大層なことではないけれど、映画が生活とつながっていて、広がりを生む刺激になります。
 今年からは「広がり」がテーマ。横浜ではこんな事をやっているよ!ということを知ってもらい、全国のミニシアターでも上映できるといいな。横浜は歴史も最先端も、上品も猥雑も、静寂も喧噪も、全部をぶちこんでかきまわした街。「そんな横浜って面白い、カッコイイ」と思ってもらいたいです。

◆「Life works」 最新作は7月30日から上映スタート
 第1作〜12作までまとめて観られる特集上映を7月23日〜7月29日(横浜シネマリン)、
  7月30日〜8月5日(シネマ・ジャック&ベティ)で開催。詳細はHPで。

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