生まれは東京の京橋で、実家はスキー用品店でした。大学時代にスキー留学をしたヨーロッパで物を大切にする文化に触れ、時計や生活骨董、ポスターなどを集め始めたのがコレクター人生のきっかけです。
　ちょうど30年前、元町チャーミングセールのポスターに、僕のおもちゃコレクションが使われました。東京から、そのポスターを見ようと横浜へ。高速道路を降りるとすぐに、たくさんの人！ものすごい活気が目に飛び込んできました。そこら中にポスターが貼ってあり「やったね！」と嬉しく思いました。
　せっかく横浜へ来たので、高校時代の友人がやっている山手のサーフショップへ行くことにしました。ちょうどフェリス女学院の前の洋館に看板があり、古い車が止まっていました。オシャレな事務所だなぁとドアノッカーを叩き、お店を訪ねました。

　サーフショップで友人に「オレも博物館をやりたいんだ」と話をしていると、彼が「横浜はいいぞ、来いよ！小鳥のさえずりと、フェリスの学生さんの歌声で目覚めるんだぜ」なんて言うのです。めちゃくちゃかっこいいでしょ。
　博物館を造りたいという夢はずっとありました。自分の夢にかけてみたい、一歩踏み出したい…。ちょうどそう考えていた時で「ここだ！横浜で絶対やろう」と決意しました。
　それから物件を探しに探して、取り壊し寸前の家を見つけました。大家さんに人は住めないよと言われましたが、古い物を飾るのでこの方がいいんです。直して使いますと言って、なんとか借りることができました。それが今のブリキのおもちゃ博物館です。
　僕らは、ブラウン管を通して見たアメリカに憧れた世代です。映画やドラマで見たアメリカは、白い柵のある家に芝生の庭、大きな犬がいて…というイメージ。山手の雰囲気がまさにこのアメリカのイメージと重なり、博物館ではそれを再現しました。
　製造当時は1ドル360円の時代。日本のおもちゃのほとんどが輸出用でした。横浜の港から海外に旅立ったおもちゃたちが、この博物館に里帰りしてくるような気がしました。

　お金も人脈もノウハウもない。借金をして博物館を始めました。あったのはやる気と情熱だけ。
　幸いなことに、どんどん忙しくなりました。結局、37歳からの10年間、1日も休みなしです。病気もしなければ、海も行かない、好きな映画も観ない。お茶を断つという言葉を自分に言い聞かせて、とにかく働きました。
　これだけ情熱的に打ち込める仕事を見つけられて、多くのお客さんがお金を払ってコレクションを見に来てくれることは本当に幸せです。
　30代の僕にはたくさんの夢がありました。おもちゃの博物館を造りたい、加山雄三さんや吉永小百合さんに会いたい、佐島の家がほしい。
　横浜に来たおかげで、これらの夢は60歳までに全部実現しました。なりたい、ほしい、会いたい、と自分の夢を口に出すことで夢に近づきます。逆に愚痴ったりぼやいたり、妬んだり恨んだり、ネガティブな言葉は言わない。そんな言葉にも魂が宿ってしまいます。
　私もつい「疲れたな」「ついてないな」と言ってしまいますが、そんな時は「ついてない。と思ったけどついているから大丈夫」と良い言葉で終わらせればいいのです（笑）。
　夢を叶えるには、出会いを大切に、一生懸命やること、そして「未来は話した言葉でつくられる」ということです。まずは言葉にして味方をつくる、次に実現した後のことも具体的にイメージする。あとはやり続ける！行動し続けてこそ、チャンスをつかめます。

　まず70歳までに宇宙へ行きます。これは再来年には行けそうです。宇宙に行った後の計画もばっちり考えています。
　そして75歳までに僕の全コレクションを表に出したい。5つの博物館がありますが、展示しているコレクションは2割以下、ほとんどは倉庫の中です。これらを展示できれば、私のコレクションだけで20世紀の日本の庶民の生活が見えてくると思います。楽しみにしていてください！

◆「北原照久 大コレクション展〜必見！名品・珍品・お宝大集合」
　8月12日（水）〜25日（火）※8月17日（月）は休業日
　小田急百貨店新宿店本館11階催物場　大人700円ほか
　・トークショー 8月15日（土）・16日（日） 11時30分〜、15時〜